【名場面0048】「そう、なら安心……って、ええ!?」 [葉桜が来た夏]
「学……」
葉桜は呆然と彼の名前を呼んだ。ややあって彼女は視線を逸らした。憑き物が落ちたように顔から険しさが引いている。双眸に知性の光が戻っていた。彼女は気恥ずかしそうに口元を歪め顔を伏せた。気のせいか、白い頬がわずかに上気している。
「……ゅう」
「あ?」
「銃……、もう撃たない?」
「おまえが行かないならな」
学の答えを聞いて、葉桜はすっと彼の手首を離した。顎を引いたまま、やや上目遣いに彼を睨みつける。
「学は――卑怯だと思う」
「卑怯って……」
「自分の命を人質にするなんて、生き物として最悪の行為よ。最低、馬鹿、卑劣漢、大嫌い」
【名場面0042】「な、な、な、なにそれ? なに、どういうこと」 [葉桜が来た夏]
「ちょっと! ちょっと学、聞いてるの?」
呼び声に誘われ、学は首を向けた。眉根に皺を刻みこちらを見つめる葉桜と目が合う。夕刻の湖面を思わせる見事なブロンド、折れそうに細い首と肩、白い陶器のような肌にはうっすらと朱が差している。
ああ綺麗だ。唐突に学はそう思った。
沈黙したままの学を妙に思ったのか、葉桜は戸惑ったように顎を引いた。
「な、なによ」
そう言ってやや上目遣いに彼を見返す。学はまじまじと彼女を見つめた後、ぽつりと口を開いた。
「おまえさ、前に俺がストレートと癖毛、どっちが好きか聞いたよな」
「は……?」
【迷場面0144】そうか、そりゃ大変だな。 [葉桜が来た夏]
【書感0019】葉桜が来た夏(4~5巻) [葉桜が来た夏]
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「葉桜が来た夏4 ノクターン」
「葉桜が来た夏5 オラトリオ」
(夏海公司著、アスキー・メディアワークス電撃文庫刊)
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これなんてハリウッド映画!?
葉桜フォーリンラヴ。
学君はテラ超人!
…の3本をお届けします、てな感じの「葉桜が来た夏」、堂々のシリーズ完結です。
【名場面0038】「す、ストレートと癖毛、どっちが好き?」 [葉桜が来た夏]
「ねえ」
背中を折り曲げてむせる学に、ふっと葉桜が声をかけてきた。左手の甲で涙をぬぐいながら顔を向ける。葉桜はややうつむきがちに卓上へ視線を落としていた。グラスをテーブルクロスの上に置き、くるくると指で毛先をいじっている。綺麗なウェーブを描くブロンドが照明の光を浴びてキラキラと輝いていた。
「なんだよ」
眉根を寄せ、きつい表情で葉桜を見据える。葉桜はちらりとこちらを一瞥し顎を引いた。
「す、ストレートと癖毛、どっちが好き?」
「はあぁ?」
思わず裏返った声を上げる学の前で、葉桜は慌てたように手を振った。
【名場面0033】「何言ってるのよ……こんな時に」 [葉桜が来た夏]
【名台詞0022】葉桜は言いました [葉桜が来た夏]
【名場面0031】「葉桜、もういい」 [葉桜が来た夏]
【迷場面0098】「で、その星野が何の用だ」 [葉桜が来た夏]
【書感0005】葉桜が来た夏(1~3巻) [葉桜が来た夏]
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「葉桜が来た夏」
「葉桜が来た夏2 星祭のロンド」
「葉桜が来た夏3 白夜のオーバード」
(夏海公司著、アスキー・メディアワークス電撃文庫刊)
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おすすめ。種族を超えたボーイ・ミーツ・ガールもの……今のところは。
お相手は、星の彼方からやってきた人間型の異種族です。まぁその異種族てのが全員美(少)女だったりなぜか日本語名だったり地球人類と同じような文化レベルだったり――てのはラノベ的お約束なわけですが、著者が描きたいのも読者が求めるのもきっとそこじゃないだろうからそれはいいんです。
乱暴にまとめると、1巻は青春映画、2巻はスパイ映画、3巻は怪獣映画といったテイスト――って、どんなシリーズじゃ、一体(^^;
【迷場面0091】「あぅあー!?」 [葉桜が来た夏]
【迷場面0090】「あぅあー!?」 [葉桜が来た夏]
葉桜が首を横に振る。学は難しい表情で口をつぐんだ。しばらく考えた後、ちらりと傍らの星野を見る。気づくと葉桜も彼女を見つめていた。ただならぬ雰囲気に星野が一歩後ずさる。
「な、なんだよ」
「星野、財布出せ」
「か、かつあげ!?」
「……何を聞いてたんだ、お前は。宿代だよ、ここの」
宿代、とおうむがえしに星野がつぶやいた。鼻の両脇にわずかな皺が寄る。彼女は尻ポケットを押さえてじりじりと後退した。
「こ、今月お金厳しいんだよな。色々使っちゃって――」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ。心配するな、後で返すから」
学の言葉に、だが星野はまだ迷った顔をしている。学は舌打ちした。ああもう、まどろっこしい。