【名場面0048】「そう、なら安心……って、ええ!?」 [葉桜が来た夏]
「学……」
葉桜は呆然と彼の名前を呼んだ。ややあって彼女は視線を逸らした。憑き物が落ちたように顔から険しさが引いている。双眸に知性の光が戻っていた。彼女は気恥ずかしそうに口元を歪め顔を伏せた。気のせいか、白い頬がわずかに上気している。
「……ゅう」
「あ?」
「銃……、もう撃たない?」
「おまえが行かないならな」
学の答えを聞いて、葉桜はすっと彼の手首を離した。顎を引いたまま、やや上目遣いに彼を睨みつける。
「学は――卑怯だと思う」
「卑怯って……」
「自分の命を人質にするなんて、生き物として最悪の行為よ。最低、馬鹿、卑劣漢、大嫌い」
「………」
えらい言われようだった。葉桜は心底疲れ果てたようにため息を漏らした。
「……で? そこまで言うなら何か考えているんでしょうね。この場を切り抜ける、何か良い方法を」
「いや」
「そう、なら安心……って、ええ!?」
葉桜は目を剥いて叫んだ。学はうるさそうに顔をしかめ、首を傾けた。
「ボートへの道は塞がれてるし前にはあの化け物だ。正直、どこにも逃げ場はない。打つ手なしってやつだ」
「あ、あなたね……」
葉桜は目眩を覚えたように後退った。唇を震わせ天を仰ぐ。
「信じられない、それでよくそんな自信満々にしてられるわね」
「後先考えて動けなくなるよりマシだろ。おまえのことはおまえのこと、ここから逃げる方法は今から考える」
「考えるって……」
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葉桜×南方学
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「葉桜が来た夏3 白夜のオーバード」
(夏海公司著、アスキー・メディアワークス電撃文庫刊)
「第五話」(P.298~300)より
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種族を超えた名コンビ・学&葉桜の……まぁ、恒例行事というか。
学の無茶振りに文句を言いつつも毎度々々きっちり付き合っちゃうあたり、葉桜は惚れた弱みだよねぇ(^^;
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