SSブログ

【名場面0031】「葉桜、もういい」 [葉桜が来た夏]


葉桜が来た夏 (電撃文庫)

葉桜が来た夏 (電撃文庫)

  • 作者: 夏海 公司
  • 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
  • 発売日: 2008/04
  • メディア: 文庫


「納得できません!」
 学は驚いて葉桜を見た。葉桜は握りしめた拳を胸に当てて、硬い表情で恵吾と茉莉花を見ていた。
「効果的な方法であることは認めます。政治に携わる以上、私の過去が利用されるのも仕方ありません。でも、学は違います。彼は一般人です、それは確かに頑固で意地っ張りですし、物知らずなくせに偉そうで見ていて苛々する時もありますけど」
「おいこら」
 学は慌てて葉桜を制止した。何を言い出すのかと思った。だが葉桜は学を一顧だにせず、言葉を続けた。
「でも彼はただの学生です。こんなことに巻き込むべきじゃありません。伯母様は仰ったじゃないですか。私達の権力も権威も、全ては民衆を守るためにあると。一般人を傷つけなければ選挙一つ勝ち抜けないなんて、それじゃあ私達はなんのためにいるんですか!」
 学は呆気に取られた。葉桜の言葉が胸に突き刺さる。恵吾の発言を聞いて、彼は自分のことで頭がいっぱいになっていた。なぜ父親は家族の過去をためらいもなく利用できるのか。なぜ自分だけがこんな理不尽に耐えなければならないのか。だがそれは葉桜も同じなのだ。実の伯母から過去を利用すると言われ、おそらく立場上それに逆らうことはできない。それでも彼女は私情を押し殺し、学のことを思いやっている。
「学さんはただの学生ではありません」
 静かな声音で茉莉花が言った。紅い玻璃玉のような目がまっすぐに葉桜を見据える。
「日本国大使南方恵吾のご子息、それが学さんの役割です。あなたがただの葉桜ではなく、評議会議長茉莉花の姪であるように」
「でも!」
「葉桜、もういい」

――――――――――――――――――――――――――――――
葉桜×南方学×茉莉花
――――――――――――――――――――――――――――――
「葉桜が来た夏」
(夏海公司著、アスキー・メディアワークス電撃文庫刊)
「第四話」(P.205~206)より
――――――――――――――――――――――――――――――
 根はまっすぐなひねくれ者と、常にまっすぐな強情者が、いがみ合いつつも歩み寄りつつある一場面。この少しずつ雪解けしていく過程がよいのですよ。

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。