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【名場面0033】「何言ってるのよ……こんな時に」 [葉桜が来た夏]


葉桜が来た夏 (電撃文庫)

葉桜が来た夏 (電撃文庫)

  • 作者: 夏海 公司
  • 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
  • 発売日: 2008/04
  • メディア: 文庫


「大丈夫か?」
 葉桜はふっと唇の端を持ち上げた。
「……内臓がぐしゃぐしゃになった気分よ。全力で動くのは……もう無理そうね」
 そう言って、すっと顔を上げる。どこか思い詰めた視線で学を見つめた。
「ねぇ学――」
「断る」
 学は即答した。葉桜は目を剥いた。
「ま、まだ何も言ってないわよっ」
「言わないでも分かる。自分が時間を稼ぐから俺に逃げろとか言うんだろ。冗談じゃない、俺にまた同じ間違いを繰り返させる気か。俺はもうこれ以上、あいつに知り合いを殺させるつもりはない」
「で、でも!」
 葉桜の声は悲鳴のようだった。
「どうするつもりよ、あの子の力を見たでしょ? 彼女は戦闘のプロよ。まともに動けない私と、ただの人間のあなたで勝てる相手じゃない!」
「それでもだ!」
 学は怒鳴りつけるように言った。ぎりりと奥歯を噛みしめ唇を引き結ぶ。葉桜は息を呑んだ。次いでその顔が怒りに歪む。
「ば、馬鹿じゃないの! いくら仇だからって、いくらあの子が憎いからって。勝ち目もない戦いに臨むのはただの自殺行為よ。信じられない、敵討ちがそんなに大事!?」
「それだけじゃ――ない」
 押し殺した声で答える。「じゃあなによ!」と気色ばむ葉桜をぎろりと睨みつけた。
「俺達は――共棲体だろ」
 葉桜が虚を突かれたように黙り込んだ。学は眉をひそめ、葉桜から視線を逸らした。
「一緒に生きるんだろ。おまえの両親みたいに幸せになりたかったんだろ。じゃあ諦めるなよ。二人で生きて帰れる方法を考えろ!」
「な――」
 わずかな沈黙の後、葉桜の顔がかぁっと赤く染まった。唇を引き結び、目を何度もしばたたいて下を向く。
「何言ってるのよ……こんな時に」
「こんな時だから言ってるんだ。じゃないとすぐに一人でなんとかするって言い出すからな、おまえは」

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南方学×葉桜
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「葉桜が来た夏」
(夏海公司著、アスキー・メディアワークス電撃文庫刊)
「第五話」(P.253~255)より
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 ………おーいお二人さん、いつも全力で向き合っているのは微笑ましいけど、目の前にアーミーナイフを持った強敵が立ってるんだが(^^;

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