【名場面0038】「す、ストレートと癖毛、どっちが好き?」 [葉桜が来た夏]
「ねえ」
背中を折り曲げてむせる学に、ふっと葉桜が声をかけてきた。左手の甲で涙をぬぐいながら顔を向ける。葉桜はややうつむきがちに卓上へ視線を落としていた。グラスをテーブルクロスの上に置き、くるくると指で毛先をいじっている。綺麗なウェーブを描くブロンドが照明の光を浴びてキラキラと輝いていた。
「なんだよ」
眉根を寄せ、きつい表情で葉桜を見据える。葉桜はちらりとこちらを一瞥し顎を引いた。
「す、ストレートと癖毛、どっちが好き?」
「はあぁ?」
思わず裏返った声を上げる学の前で、葉桜は慌てたように手を振った。
「ち、ち、ちがうわよ! 私がどうこうじゃなくって、一般的にの話。や、や、やっぱりさらさらストレートの方がいいのかしら。一般的に、男性的に。ね、ねえ、どう思う?」
「どうって……」
なんと答えてよいか分らず学は口ごもった。葉桜が何を考えてこんなことを聞いてくるのか。さっぱり意図が分らない。わずかに考えた後、学は当たり障りのない回答を返した。
「そんなの人それぞれじゃないのか。ストレートがいい奴もいれば癖毛が好きな人もいるだろ」
「だ、だからそういうことじゃなくって」
「じゃあ、どういうことだよ」
声音に苛立ちをにじませて問い返すと、葉桜は泣き出しそうな表情になった。「うぅぅ……」とうなるような声をあげた後、何かを諦めたような顔で肩を落とした。
「もういい……。学に聞いた私が馬鹿だった」
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葉桜×南方学
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「葉桜が来た夏2 星祭のロンド」
(夏海公司著、アスキー・メディアワークス電撃文庫刊)
「第一話」(P.53~55)より
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ちなみにこのシーンのちょっと前で、葉桜は黒髪ストレートの娘が学にちょっかいをかけたと勘違いしてむくれています。……つまり、そういうことです。
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