【名場面0046】「両方だっ!!」 [星界シリーズ]
「ど、どうしたの?」
「心配するな。艇体を切り離しただけだ」
「だけだって!?」
「反物質燃料を抱いたまま大気圏に突入するわけにはいかぬであろ。人の迷惑も考えないとな」
「でも、艇体を切り離すなんて……」アーヴらしく過激だな、とジントは思った。
「連絡艇は、もともと着陸するようにはつくられていない」ラフィールは早口で説明した。「着陸するというのは、緊急脱出と一緒なんだ」
「着陸できるのかい、艇体なしで?」
「艇体があったら、着陸できない」ラフィールは苛立たしげに、「わたしだって恐いんだぞ、着陸するのは初めてなんだから!」
「は、初めてだって!?」
「いったであろ、地上世界には行ったことがないんだ」
「でも、訓練ぐらいは……」
「模擬訓練だけした」
「どっちが恐いんだ、着陸するのと地上世界と?」
「両方だっ!!」
じつに納得できる答えである。
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リン・スューヌ=ロク・ハイド伯爵公子・ジント
×アブリアル・ネイ=ドゥブレスク・パリューニュ子爵・ラフィール
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「星界の紋章Ⅱ -ささやかな戦い-」
(森岡浩之著、早川書房ハヤカワ文庫JA刊)
「5 スファグノーフ門」(P.109~110)より
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本シリーズの魅力は数ありますが、その根幹にあるのは個性も魅力も溢れる特異な種族アーヴ、そしてアーヴが支配階層であるが故に成立する斬新な構造の星間国家「アーヴによる人類帝国」です。
物語の随所に現れる宇宙と地表の対比、それはすなわちアーヴとアーヴ以外の人類の対比であり、ラフィールとジントの対比でもあるわけですが、全編を貫くこのテーマがひじょうに妙味を醸し出しているのです。現代日本スペオペの金字塔でしょう。……はよ新刊出せ。
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