SSブログ

【名場面0045】「ほんとに不愉快なんだぞ」 [星界シリーズ]


星界の紋章〈2〉ささやかな戦い (ハヤカワ文庫JA)

星界の紋章〈2〉ささやかな戦い (ハヤカワ文庫JA)

  • 作者: 森岡 浩之
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1996/05
  • メディア: 文庫


「まさか戦うなんていいださないだろうね」不安そうにジントがいった。
「わたしをなんだと思ってるんだ?」ラフィールは不快だった。「べつに戦うのが好きなわけじゃないぞ。しかたないときにしか戦わない」
 ジントの眼に浮かんだのはあからさまな不信だ。
「心配するな、少年」前男爵がなだめるように、「アーヴはいったん戦うときには徹底的に戦う。戦いがはじまれば、取引や妥協はありえん。行きつくところまで行ってしまうんじゃ。それだけに戦いの恐ろしさをよく知っておる。じゃから、なるべく戦いは避ける」
「そうでしょうか……」
「歴史をひもといてみろ、少年。帝国のほうからいくさをしかけた例しはない」
「そんなことはないでしょう。げんにぼくの星系は帝国の存在なんて知りもしなかったんですよ。それなのに帝国は武器をむけてきたんです」
「おまえさんの星系? ハイド伯国のことか?」
「ああ、そうか。前男爵はご存じないんだ。ハイドというのは人類社会から孤立した星系だったんですよ。ほんの七年前まで」
「なるほど」老人はうなずいた。「おまえさんの家の歴史がおぼろげにわかってきたぞ」
「まあ、そんなことはともかく……」
「気を悪くせんでほしいのじゃがな、少年、帝国は星間国家しか相手にせん。星間国家との戦争はまったく無慈悲に遂行するが、地上世界を相手にするときにはやたらと思いやりにあふれておる。めったに地上戦もせんじゃろ。まあ、はっきりいって見くだしておるのじゃろうな。文字どおり、宇宙から。喧嘩相手にならんのよ」
「複雑な気分ですね」そういいながらも、ジントはようやく安心したようだった。
 ラフィールは疎外感を覚え、「そなたたちもアーヴなんだぞ。どうしてそう他人事みたいにいうんだ?」
「殿下」前男爵はうやうやしくいった。「わしはアーヴたることを学んで、ようやくアーヴになりました。この少年、いや、青年というべきですかな、伯爵公子閣下はいまアーヴになることを学んでおられるのです」
「ぼくは慣れなきゃいけないことがいっぱいあるんだ」ジントも口を出した。
「でも、不愉快だ。わたしを珍しい動物かなにかみたいに論評するなんて!」
「申しわけありませんな」
「ごめん」
 まるで誠意が感じられない。
「ほんとに不愉快なんだぞ」と念押しした。
「わかってるって」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――
リン・スューヌ=ロク・ハイド伯爵公子・ジント
 ×アブリアル・ネイ=ドゥブレスク・パリューニュ子爵・ラフィール
 ×アトスリュア・スューヌ=アトス・前フェブダーシュ男爵・スルーフ
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「星界の紋章Ⅱ -ささやかな戦い-」
(森岡浩之著、早川書房ハヤカワ文庫JA刊)
「4 旅立つ者たち」(P.83~84)より
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
 最後の念押しするところが可愛いですよねぇ、殿下(^^;

nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。