【迷文0003】まさにおそるべきあとがき [ばけらの!]
小説で飯を食い始めて三年になります。僕はこれまで、舞台が現代である設定のシリーズを多く書いてきたのですが、たとえ作中に明確に出てこなくても、「これは西暦何年の何月何日の話である」と決めて書くことがほとんどでした。なぜかというと、曜日や祝日などにおいて、気づかないところで矛盾が生まれてしまうおそれがあるからです。
【迷場面0100】「いつもこのことを考え弓射をたしなみますの」 [ばけらの!]
「あら、執筆はしめきりがスタートラインですわよ」
編集者が聞いていたら卒倒しそうなことを亜里沙さんはにこやかに言う。
「ゼノンのパラドックスはご存じですわね? 飛んでいる矢は止まっている、ですわ。しめきりが過ぎても、発売日の一ヶ月前に『念のためのしめきり』があります。三週間前には『本当のしめきり』があります。二週間前には『真実のしめきり』が、十二日前には『真理のしめきり』が、さらには『光速のしめきり』『涅槃のしめきり』『虚空のしめきり』が――」
「亜里沙さん専用の異常進行と一緒にしないでください……」
「時間をどこまでも分割して新しいしめきりを作っていけば、飛んでいる矢が永遠に的に当たらないのと同じように、しめきりも永遠にやってこないのですわ。あたくしは原稿がせっぱ詰まってきますと、いつもこのことを考え弓射をたしなみますの」
「ンなことしてないで原稿書けよ!」