【迷場面0152】「経験は、ありません。処女です」 [化物語]
「あのね、戦場ヶ原」
言い聞かせるような口調になってしまった。
「仮にそんなような交渉が成立してしまったら、僕達の間に、その後の友情はありえなくなると思うんだよ」
「あら。言われてみれば確かにそうね。そうだったわ。では、エロ方面は禁止ということで」
まあ、妥当だ。
ていうか、語尾に『にゅ』は、戦場ヶ原の中ではエロ方面の要求なのか……。澄ました顔して、結構特殊な趣味を持っているよな、こいつ。
「でも、どうせ阿良々木くんはエロ方面の要求なんてしてこないだろうとは思っていたけれどね」
「お。えらく信頼されてんじゃん」
「童貞だもの」
「……………」
そんな話もしましたね。
そう言えば、先週。
「童貞はがっついてないから、相手が楽でいいわ」
「あの……戦場ヶ原、ちょっと待ってくれよ。お前そうやって童貞について、この前から色々言ってるけどさ、お前だって、別に経験があるわけじゃないんだろう? それなのに童貞をそういう風に言うのは、あんまり感心しないというか――」
「何言っているの。私は経験者よ」
「そうなのか?」
「やりまくりよ」
さらりと言ってのける戦場ヶ原。
こいつ……、なんていうか、本当に僕の言うことに、ただただ逆らいたいだけなんだな……。
やりまくりっていう表現もどうよ。
「えっとな……何て言っていいかわからないけれど、それも仮に、仮にだよ、仮に本当にそうだったとして、その事実を僕に対して告げることが、戦場ヶ原、お前にとって何か利益になるのか?」
「………む」
赤面した。
ただし、戦場ヶ原がじゃなく、僕が、だけど。
なんかもういっぱいいっぱいな会話だった。
「わかったわ……訂正します」
やがて、戦場ヶ原は言った。
「経験は、ありません。処女です」
「……はあ」
告白は告白でもすごい告白をされた。
僕もこの前させられたのだから、おあいこといえばおあいこだけれど。
「つまり!」
戦場ヶ原は続けて毅然と、こちらを人差し指でびしっと指差して、公園中に響き渡らんばかりの大きな声で、僕を怒鳴りつけた。
「阿良々木くんみたいないかさない童貞野郎と話してくれる女の子なんて、精々私のような行き遅れのメンヘル処女しかいないということよ!」
「…………!」
こいつ……僕を罵倒するためになら、自分の身を貶めることすらも厭わないのか……。
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阿良々木暦×戦場ヶ原ひたぎ
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「化物語(上)」
(西尾維新著、講談社BOX刊)
「第二話 まよいマイマイ」(P.120~122)より
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このシーンはアニメでも最高でした(^^;
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