【名場面0037】だって、それぐらいに、あの少年は特別で……。 [イスカリオテ]
自分の言動は、まるで論理的じゃない。
だから、悩む。
何が、嫌だったのだろう。
人形である自分が悩むなど、それ自体がおかしいことにも気づかず、ノウェムは没頭する。ごくごく自然に、思考回路のリソースをあの少年へ割り振ってしまう。
だって、それぐらいに、あの少年は特別で……。
「……そ、そうですとも」
路地裏を探る作業と思考を分割しながら、きゅっと拳を握る。
今度はすぐに、ノウェムは顔をあげた。
だって、こんなの当たり前だ。
あの少年は自分の洗礼者なのだから、第一優先順位なのだから、いちいち考えてしまっても無理はない。むしろあの少年が悪いのだ。もっと自分を理解して、もっと自分をうまく使うべきなのだ。だって、世界でノウェムを使って良いのはあの少年ひとりなんだから、これぐらいの主張は当然なのだ。
そう信じて、無理矢理に自分を納得させる。
(そうです。イザヤ様が悪いんです。もっと私の使い方に慣れてくだされば良いのです。だいたい、いつもイザヤ様は勝手です。いつも逃げたいと言っているのに逃げなかったり、ニセモノを嫌がっているくせにあんなにうまくこなしたり。料理のレパートリーを増やしてみても、何も感想言ってくださいませんし――)
いろいろ問題がすりかわっていたが、ノウェムはそれなりに満足していた。
実際、二週間ばかりのわずかな人生経験で、自分の気持ちが何なのか、推測できるはずもない。
それぐらい、ノウェムにとってイザヤは特別で、絶対だった。
はじめて自分を稼働させてくれた洗礼者であり、はじめて自分と戦ってくれた同胞であり、はじめて自分の料理を喜んでくれた人で……
ああ、理屈はいい。
ただ。
ノウェムは、イザヤと一緒にいたかった。
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ノウェム(イブ・カダモンシリーズ・EK-09h)
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「イスカリオテⅡ」
(三田誠著、アスキー・メディアワークス電撃文庫刊)
「第二章 大淫婦」(P.72~74)より
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2巻に入ってから加速度的に自動人形らしからぬ乙女っ娘純情っぷりを発揮してくれるのがノウェムです。作者は明らかに狙ってますね、コレ(^^;
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