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【名場面0034】「あなたの名前を呼べると考えるのが私です」 [イスカリオテ]


イスカリオテ (電撃文庫)

イスカリオテ (電撃文庫)

  • 作者: 三田 誠
  • 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
  • 発売日: 2008/11/10
  • メディア: 文庫


「もうひとつだけ、うかがってよろしいですか?」
「何だよ」
「イザヤ様の本当の名前は、なんとおっしゃるのでしょう?」
「なんで、そんなの訊きたがる?」
「いけないでしょうか」
 人形の声音はいつも通りなのだが、何故か残念そうな響きを感じ取って、イザヤはため息をついた。
 どうして、この人形をうまくあしらえないのだろう。
 嘘も詐術も、得意なはずなのに。
「九瀬勇哉」
 と、呟いた。
「クゼユウヤ。字はどう書くのですか?」
「勇気の勇に、古文とかで使う哉だよ」
 手を振って答える。
 すると、人形はおかしなことを言った。
「ああ……では、イザヤは本当にあなたの名前でもあるのですね」
「は?」
「だって、勇哉はイザヤと読めるでしょう。これからイザヤ様と呼ぶときは、『九瀬諫也』ではなく、あなたの名前を呼べると考えるのが私です。よろしいですか、イザヤ様」
 そんな馬鹿げたことを言われて、もっと馬鹿げたことに、少年は何も言えずに硬直した。
 だって、そうだろう。

 この都市に来て、はじめて自分の名前を呼んだそれは――まるで童女のように透明極まりない笑顔みだったのだから。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――
ノウェム(イブ・カダモンシリーズ・EK-09h)×九瀬イザヤ
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「イスカリオテ」
(三田誠著、アスキー・メディアワークス電撃文庫刊)
「終章」(P.362~363)より
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
 いや~……、けなげだよノウェム。

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