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【迷場面0150】「警察はなにしてたんだ!」 [さよならピアノソナタ]


さよならピアノソナタ (電撃文庫)

さよならピアノソナタ (電撃文庫)

  • 作者: 杉井 光
  • 出版社/メーカー: メディアワークス
  • 発売日: 2007/11
  • メディア: 文庫


「神楽坂先輩に逢ったんだって?」
 翌朝の教室で、千晶はぼくの顔を見るなりそう言った。
「ああ、うん」ぼくはうんざりして答える。「逢ったっていうか遭ったっていうか」
「じゃあ、もう入部決まりだね?」
「なんでだよ」
「先輩、なにかほしいと思ったら絶対手に入れる人だから」
 そのやばいせりふは昨日、本人からも聞いた。神楽坂先輩は裏庭の練習個室の前で、ぼくにずびっと指を突きつけてこう言ったのだ。
『私はほしいと思ったものはどんなことをしてでも手に入れる。蛯沢真冬も、この部屋も、それからきみも』
 先輩の宣言する後ろで、練習個室から漏れ聞こえるショパンの葬送ソナタは終楽章の墓場に吹きすさぶ風のところに差しかかっていて、ぼくは一瞬死にたくなったものだ。

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【名場面0027】「……ギターくらい弾ける、なんてまだ言えるの?」 [さよならピアノソナタ]


さよならピアノソナタ (電撃文庫)

さよならピアノソナタ (電撃文庫)

  • 作者: 杉井 光
  • 出版社/メーカー: メディアワークス
  • 発売日: 2007/11
  • メディア: 文庫


「……ぼくだってギターくらい弾けるよ?」
 不意に漏れ出た言葉は、でまかせではなかった。
 ぼくもロックを色々聴いてきた男として、ギターに手を出したことがある。中二の夏のことだ。家の物置で埃をかぶっていたガットギターを引っ張り出して、『天国への階段』のイントロを必死になって練習した。
 今は、もう――触ってもいないけれど。
 真冬の目は冷たく、細くなる。どうせでまかせでしょ? とでも言いたげに。
 ぼくがさらになにか言おうとしたとき、真冬は机に立てかけてあったギターを取りあげてアンプにつなぐと、ヘッドフォンを手にいきなりぼくのそばまで寄ってきて、強引に頭にかぶせた。
「な……」
「動かないで」

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【迷場面0087】「嘘つき」 [さよならピアノソナタ]

 足音がすぐ横で止まった。
「――ぁ」
 気づかれた。真冬はふるふると痙攣する指でぼくをさし、「な、な、なんであなたがここにいるのっ?」と、びっくりするほどの大声で叫んだ。ぼくは頭を両腕で抱えて机に突っ伏した。クラス中の視線を感じる。かんべんしてください。
「なに、知り合い?」
 千晶がぼくと真冬の顔を見比べながら訊いてくる。ぼくは机に額をこすりつけるようにして首を振った。
「いやいや。知らない。人違いだよきっと」
「なんで嘘つくのっ!」と真冬。
「そっちが忘れろって言ったんだろ」
「ほら憶えてるじゃない! 忘れてって言ったのに」
 ああもうわけわかんないよ。
「うん、だから忘れたってば。だれ?」
「嘘つき」

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【名言0012】神楽坂響子はかく語りき [さよならピアノソナタ]

「人間は簡単に、ほんとに簡単に、ある日ふっといなくなる。そして二度と戻ってこない」

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【名場面0009】「今はもう、なに?」 [さよならピアノソナタ]

「あとさ、歯で弾けばっての、わりと冗談だけでもないんだ。真冬ならできるんじゃないの」
「できるわけないでしょ!」
 背中にまたも頭突き。地味に痛い。
「あなたは、わたしのギターが聴ければそれでいいの?」
「いや……そんなことは。ピアノも――って、これは前に言ったっけ」
「そういうことじゃなくてっ」
 そのうち後ろから首絞められそうな剣幕だった。
「実は、最初は真冬のギターはあんま好きじゃなかった。巧かったけど」
「ひがみ」
「うるせえ。今はもういないとだめなんだよ」
 それは、言葉じゃ伝えられなかったこと。

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【名場面0008】「ここにいる」 [さよならピアノソナタ]

 ぼくは黙ってうなずき、また『ブラックバード』の最初のフレーズをつま弾く。翼が折れてしまったら、飛び立てるときまで待てばいい。
「だれかを勇気づける歌、なの?」
 ふと真冬が訊いた。ぼくは少し迷ってから答えた。
「黒人女性の解放を歌ったんだって言われてる。ポール自身も、そんなことを言ってたらしいよ。でも、ぼくはそういう考え方があんまり好きじゃない」
「どうして?」
「だって、そんなのひねくれてるよ。そのままでいいじゃんか。ブラックバードのことを歌ってる歌なんだから」
「ほんとにいる鳥なんだ」
「うん。クロウタドリっていう。ちっちゃくて真っ黒で、くちばしだけが黄色くて、すごくきれいな声で啼くんだって。写真だけ見たことある。日本には、たぶん一羽もいないけど」

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【書感0004】「さよならピアノソナタ4」 [さよならピアノソナタ]

――――――――――――――――――――――――――――――
「さよならピアノソナタ4」
(杉井光著、メディアワークス電撃文庫刊)
――――――――――――――――――――――――――――――
 さよソナの4巻を買った時から――より正確には、帯を見てこれが完結編と知った瞬間から、2008年締めくくりの一冊はこれしかない!と決めていました。
 その脳内公約通りに大晦日の夜に読了したわけですが、おそらく読者の大半が抱いたであろう感想を私が代弁しましょう――



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【名台詞0014】桧川直巳は言いました [さよならピアノソナタ]

 そのときぼくはふと、処理場のおじさんの言葉を思い出す。戻ってきたら、女の名前をつけろ。でもそれは無理な話だった。戻ってきた今なら、わかる。ぼくは切れ切れの息を継ぎながら、手の中のそれを見つめる。
 だって、これはぼくの欠片だ。他に名前は、いらない。

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【名場面0006】「ぜっ、たい、だから!」 [さよならピアノソナタ]

「とにかくどこか行って今すぐ。それからわたしがここにいたこと、絶対だれにも言わないで。今聴いた曲は記憶から消して」
「無茶言わないでよ……」
「ぜっ、たい、だから!」
 涙目。今にも空じゅうの星がこぼれ落ちてきそうな。ぼくはなにも言い返せなくなる。

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【名台詞0013】神楽坂響子は言いました [さよならピアノソナタ]

「……少年。ベースってなんだと思う?」
 ぼくはそっと顔を上げる。先輩は笑っていなかった。目つきは優しかったけれど。
「バンドがもし一人の人間で。ヴォーカルが頭で、ギターが手」先輩は自分の手元から、千晶の方へと視線を移す。「ドラムスが足だとしたら、ベースは何だと思う?」
 先輩の謎かけに、ぼくは答えられなかった。だって。これまで生きてきた中で、ぼくはずっと受け取るだけの人間だったのだから。
 先輩はようやく薄く笑って、それからすっとぼくに身体を寄せてきた。先輩の手のひらがぼくの胸に押し当てられるので、ぼくはどきりとして固まる。
「ここだよ、少年」
 じっと正面からぼくの目を見つめて、神楽坂先輩は言った。
「心臓だ。わかる? きみがいなければ、私たちは動けない」

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【雑感0001】天国発、奈落経由――何処行き? [さよならピアノソナタ]

 今月購入予定の新刊、1日時点で16冊。
 8月のPCクラッシュ→箱舟でデータだけはサルベージ→新PCで新天地創造してから、自宅PCにインストールしたOutlook(スケジュール管理ソフト)で新刊の発売日を管理するようになりました。
 新刊の発売日をニュースにしているサイトを見つけたことや、駅前の書店がポイントカードを始めたこと、天井ぎりぎりまで届く本棚を揃えたことも相まって、以来買い込むラノベの数が増えたのなんのって(^^;

 そんな私が今月楽しみにしているのが、10日。いわずとしれた電撃文庫の発売日だからですが、それよれなにより、「さよならピアノソナタ」の新刊が出るから!!!


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【名文0002】世界が滅んだ十五分後みたいな不思議な静けさ [さよならピアノソナタ]

 いつ頃からその谷が粗大ゴミの投棄場所になったのかも、それが合法的なものなのかも、ぼくは知らない。とにかくあちこちからトラックがやってきては壊れた電化製品やら家具やらを捨てていくせいで、いつしかそこには、世界が滅んだ十五分後みたいな不思議な静けさに閉ざされた領域ができあがっていた。

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【迷場面0053】「おもにぼくに謝れ」 [さよならピアノソナタ]

「暇つぶしバカにすんな、人生は死ぬまでの暇つぶしだ!」
「じゃあさっさと死んだらいいじゃない!」
 なんか今ぼくすごいこと言われてますよ?
「いや、ぼくが死んだら母や妹たちが哀しむから」と口からでまかせを言うと、「あなたの家族がろくでもない父親一人なのはとっくに知ってる」なんて返された。くそ、哲朗の評論読んでやがったのかこいつ。あのクソ親父は音楽評論に平気でぼくのことを書くのである。この指揮者のアダージョの鈍さは息子の作るポテトサラダのようである、とか。でも――
「ろくでなしなのは認めるけど、あいつをバカにしていいのは実際に迷惑かけられてるぼくだけだ。謝れ。おもにぼくに謝れ」

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【書感0002】「さよならピアノソナタ」(1~3巻) [さよならピアノソナタ]

――――――――――――――――――――――――――――――
「さよならピアノソナタ」
「さよならピアノソナタ2」
「さよならピアノソナタ3」
(杉井光著、メディアワークス電撃文庫刊)
――――――――――――――――――――――――――――――
 学園青春小説の傑作。大好きです。

 作中いっぱいにちりばめられた豊かな音楽知識が、単なるうんちく止まりではなく、物語の小道具やアクセントにちゃんとなっています。なにより、疎い読者にもすんなり読ませる文章力、生演奏を聴いている錯覚を覚えるほどの描写力に拍手。
 1巻のストーリーにきっちりリンクしているタイトルのセンスもいいですね。まだまだ物語は続くようなので行く末はまったく見えませんが、今から超傑作になる予感が。

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【迷場面0047】「お父さん哀しいよ」 [さよならピアノソナタ]

「なにをする我が息子よ。おれがこの世でいちばん不愉快なのは交響曲の第三楽章を聴いてるのを途中で邪魔されることだ。前に教えただろう」
「人生の第三楽章途中で止まってる中年男がなにをえらそうに」
「うわあ。ナオくん、そんな口汚い罵倒語はどこで憶えたんだい? お父さん哀しいよ」
 あんたの評論読んで憶えたんだよ。

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【迷場面0046】「ほんとにボンゾだったの」 [さよならピアノソナタ]

「正月に、医者からもう柔道は無理って言われてやけ酒飲んでさ」飲むなよ未成年。「酔っぱらって寝てたら夢にボンゾが出てきたの」
 ボンゾというのはレッド・ツェッペリンのドラマーで、泥酔したまま眠って嘔吐物を喉に詰まらせて窒息死した人。ていうかそれやばいって。死ぬ寸前に見るアレだったんじゃないの?
「おまえにはドラムしかないって言われた。ボンゾに言われたらやるしかないでしょ?」
「ほんとにボンゾだったの」
「河原のお花畑で手振ってたから間違いなくボンゾ。すっごい日本語うまいの。津軽弁だったけど」
 そりゃ一昨年死んだおまえの祖父(じい)さんだろ。

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【名台詞0008】桧川直巳は言いました [さよならピアノソナタ]

「んー……。壊れちゃったものを直すのは、けっこう楽しいよ? なんでか知らないけど、いっぺん失くしたものが戻ってきたときの方が、みんな嬉しそうな顔するんだよね」

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【迷場面0034】「それはチャゲアスのパクリだ」 [さよならピアノソナタ]

「言葉じゃ、伝わらないなんてことはよくあるんだ」
 哲朗の言葉に、ぼくは顔を上げた。
「おれの商売は、毎日それを確かめているようなもんだよ。だって二百年も三百年も前に地球の裏側で、おれたちとは全然ちがう言葉使って、全然ちがう生活してたやつが――書いた曲が、今でも揺さぶってくるんだぜ。正面切って勝てるわけがない。言葉は、心を超えない。お、これ、名言だな。どこかで使おう」
「それはチャゲアスのパクリだ」

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【迷場面0010】「全部同じだよ!」 [さよならピアノソナタ]

「先輩は恋しすぎなの」
「生まれつきだよ。しかたない。私の八割は恋心でできているんだ」
「残りは?」
「愛欲が三割に懸想が一割」
「全部同じだよ!」「二割多いよ?」

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