【名場面0052】「お邪魔しまーす。敢えて言うよ。お邪魔しまーす」 [藤堂家はカミガカリ]
「ごめん。一人にして」
春菜が顔を上げると、まばたきした拍子に涙がこぼれた。そしてまたうつむき両手で顔を覆った。
「神一郎さんは悪くないです。謝らないで、ください」
何を言えばいい。何を言えば、春菜は泣かずにいてくれる。
わからなかったから、とりあえずしゃがんだ。わからなかったから、とりあえず春菜の顔を隠す手をとって、握った。
そうしたら、言葉が勝手に出てきてくれた。
「帰ってくるから、絶対。大切だから、この家が。矢が降ってきても帰ってくるから」
そう言うと、涙を浮かべたまま春菜は微笑んで「おおげさですよ」と言った。
「……でも、嬉しいです」
春菜の小さな白い手は、神一郎の手を握り返してくれていた。
不思議で仕方がない。春菜の前だと、どうしてこんなにもすらすらと恥ずかしいセリフが言えるのだろう。言っている間は恥ずかしいなんて思っていないんだけど。
その時リビングの扉が開き、美琴の声が飛び込んできた。
「お邪魔しまーす。敢えて言うよ。お邪魔しまーす」
神一郎はリモコンを投げつけた。
美琴はミリカを盾にした。
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建代神一郞×藤堂春菜×天霧美琴
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「藤堂家はカミガカリ3」
(高遠豹介著、アスキー・メディアワークス電撃文庫刊)
「5.集結か吸血か」(P.250~251)より
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名場面を台無しにしかねない、とぼけた美琴が最高にいい味出してます。
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