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【名場面0050】「わたしたち、地上最強の夫婦になれるんじゃない?」 [カンピオーネ!]


カンピオーネ! 神はまつろわず (集英社スーパーダッシュ文庫)

カンピオーネ! 神はまつろわず (集英社スーパーダッシュ文庫)

  • 作者: 丈月 城
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2008/05/23
  • メディア: 文庫


「ところで護堂、久しぶりにふたりっきりなんだから、そんな色気のない話はやめない? せっかくの短い逢瀬なのよ?」
 いきなりエリカが近づいてきた。
 ぴったりと護堂に寄り添い、耳元でささやきかけてくる。
 魅惑的な少女から、積極的にスキンシップを迫られる。健全な男子高校生であれば、誰しも胸をときめかせる展開である。
 もちろん、護堂も例外ではない。ないのだが――。
「そういう悪ふざけはやめろって何度も言ってるじゃないか。もっと節度を守って、健全な友達同士のつきあいをしよう!」
「ふざけてないわよ。久々に会った恋人同士で、愛を確かめ合おうってだけじゃない」
 こちらの反駁など無視して、エリカが顔を近づけてくる。
 頬に頬をすり寄せ、体重を預けながらの、蜜のように甘いささやき。
 護堂はできるだけ距離を保とうと、必死に後ずさった。
「お、俺はおまえの恋人じゃないっ。いいかげんにしてくれよ、頼むから!」
「あなたの方こそ、いいかげんにわたしの愛を受けいれなさい。わたしのどこが不満なの? 容姿でしょ、若さでしょ、あとスタイル、この辺は全く問題ないと思うんだけど。……もしかして護堂、すごくマニアックな趣味があるとか?」
「バカ言うなッ。俺は完全なノーマルだよ! いや、趣味とかそういう問題じゃなくて」
 後退する護堂に、エリカはぴたりと密着したままついてくる。
 ……本音を言えば、わがままなところも強引なところも、慣れると可愛く思えてくるのだから恐ろしい。これだけ振り回されても、不思議と憎めない。
 しかし、だからといってエリカの求愛に応えるわけにはいかなかった。
「わたしは護堂が好き。護堂もわたしのこと、かなり好きでしょ? ほら、もう大丈夫。結婚しても、きっと上手くやれるわよ。わたしたち、地上最強の夫婦になれるんじゃない?」
「それだよ、それ! 勝手に結婚まで決めるな! 俺はまだ家庭を持つ気はない!」
 彼女の愛を受け容れたが最後、そのまま教会へ拉致されそうな気がする。
 人生八〇年と仮定しても、護堂はまだ四分の一も生きていない。この程度の人生経験で生涯の伴侶を決めてしまうのは、やはりためらわれる。
 それに、もっと切実な理由もある。
 事あるごとに恋人面してくるエリカだが、彼女なりに思惑があってのことなのだ。
「――なあエリカ、俺を変な風に利用しようとするなよ。おまえには借りだってあるし、困ったヤツだけど友達だと思ってる。筋の通った頼み事なら幾らでも聞くから、そういうのはやめてくれ」
 真摯な口調で護堂は訴えた。
 まったく自慢にならないが、自分が女子に好かれるタイプだと思ったことは一度もない。
 草薙護堂は面白い話のひとつもできず、気も利かない朴念仁なのだ。
 妹からはよく鈍いと罵倒されるし、口うるさいところもある。
 こんな男を好いてくれる物好きな女性は、そういまい。ましてエリカなら、望めばどんな相手でも選べるはずだ。
「おまえの騎士団とやらが、俺をたらしこめって命令してるんだろ? ちゃんと知ってるから無理するな。おまえには、そんな風にウソをついて欲しくない――って、聞いてるか?」
「聞いてる。……護堂って本当に鈍いわよね。こんなに綺麗な花が、自分から手折って下さいって言ってるのに、全然理解できないなんて」
 護堂にくっつきながら、エリカはハァとため息をついた。
 彼女にしては珍しく、心からの憂いをこめたような、重い吐息だった。
「わたしは上から命令されたぐらいで愛人を選ぶほど、真面目でも忠義者でもないわよ。その程度のこともわからないんだから、ほんと困った人よね」
「いや、まあ、察しのいい方じゃないって自覚はあるけど。――そういうのをやめろと言ってるんだ!」
 ようやくエリカが腕を放してくれたので安心した途端、いきなりキスされてしまった。
 それも頬などではなく、軽くとはいえ唇に。
「いつもわたしに冷たくする罰よ。……ま、いいわ。じっくり時間をかけて、わたしの愛を理解させてあげる。覚悟しておきなさい」


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エリカ・ブランデッリ×草薙護堂
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「カンピオーネ! 神はまつろわず」
(丈月城著、集英社スーパーダッシュ文庫刊)
「第2章 決闘と紅き悪魔」(P.52~54)より
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 あかいあくまミラノの「紅き悪魔」の精神攻撃の図。……まだほんの序の口です。

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