【名場面0047】人形だというのに真っ赤に染まって、唇までへの字にしていて、今にも泣き出しそうに見えたからだった。 [イスカリオテ]
カルロに答えながら、ノウェムはつかつかと大股で、少年のそばへ詰め寄った。
これ以上ない迫力で、紫水晶の瞳が睨みつけてくる。
「ノウェ、ム――?」
思わず声がくぐもったところへ、つけ込むように訊かれた。
「イザヤ様――断罪衣を起動できたんですか?」
「え? あ、まあ……」
「…………」
「…………」
今度は、沈黙。
さして長くはなかったが、あまりに重苦しいそれに少年が耐えかねて――突然、来た。
「イザヤ様が悪いんです!」
「うわ!」
いきなり、大声で叩きつけられたのだ。
きゅっ、と断罪衣の胸元を掴まれる。
「イザヤ様が悪いんです! 絶対にイザヤ様が悪いんです! いつもいつも、どうしてイザヤ様は私を伴ってくださらないのです!」
少年の断罪衣を掴み、精一杯背伸びまでして、実に一生懸命にノウェムが言うのである。
「イザヤ様の剣で盾なのが私だと、何度も言ったはずです。なのにその剣をおいて、どうしていつも勝手に行動してしまうんです! こんな風に主を探さなきゃならないのなんて、人形としての屈辱で、主の怠慢と判断します。今回単独で断罪衣の展開ができたようですが、それだって運否天賦に違いないでしょう。一体どれだけしたら、学んでくださるのですか! ああもう、どうしてもっと使ってくれないのかと抗議するのが私です! もう少しぐらい頼ってくださってもいいと切実に思うのが私です!」
「それは、その……」
一方的にまくしたてられて、イザヤが瞬きする。
気のせいかもしれない。
人形の顔が――人形だというのに真っ赤に染まって、唇までへの字にしていて、今にも泣き出しそうに見えたからだった。
「その……悪かった」
「……分かってくださればいいのです」
視線をそらして、拗ねるみたいに人形が口にした。
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九瀬イザヤ×ノウェム(イブ・カダモンシリーズ・EK-09h)
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「イスカリオテⅣ」
(三田誠著、アスキー・メディアワークス電撃文庫刊)
「第三章 紅衣の娘」(P.227~229)より
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主が好きだから役に立ちたくてたまらない自動人形と、そんな人形が可愛いからつい危険から遠ざけたくなるツンデレ主の噛み合わなさ。こそばゆいったらないですねぇ。
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