【名場面0044】「こうやって……イザヤ様から……触れてもらえばよかったんですね……」 [イスカリオテ]
「ああ、そうだ」
と、ぽつりと言った。
「ポンコツ。お前、なんか欲しいものとかあるか?」
「欲しいもの、ですか?」
きょとんと小首を傾げたノウェムに、イザヤは唇を歪めた。
「お前が俺の剣と盾になるっていうなら、それに報いてやらなきゃいけねえだろ。でないと帳尻が合わねえ。どうせ、教団から給料が出てるってわけじゃないんだろし」
「イザヤ様の生活に必要な資金は頂いてますが」
「お前の私物はねえだろうが」
「…………」
しばらく、ノウェムは考え込んでいた。
きっかり十秒で、答えが出た。
「ひとつだけ、望みがありました。よろしいですか?」
「おお、何でも言えよ。あ、先に言っておくけど、できねえことはできねえからな。後、大金とか要求されても困るぞ」
「おそらく、イザヤ様に問題なく実行可能と存じます。金銭にも関連しません」
「じゃあ言えよ」
「はい」
うなずいて、人形はその頭を差し出したのだ。
「あん?」
「頭を撫でてください」
「は?」
たぶん、その顔はイザヤが御陵市に来て以来の、最も間抜けな顔となったろう。
かなり長い間、ぱくぱくと口を開閉した後に、
「……分かったよ」
と、銀髪の間に指を差し込んだ。
なるだけ乱暴に、ぐしゃぐしゃと掻き混ぜてやる。
それでも、人形は本当に嬉しそうに微笑を深めた。
「なんだよ、変な顔して」
「何でもないです」
イザヤの言葉に、ノウェムはそっと瞼を閉じた。
思い出したのだ。
数日前に、もどかしく悩んでいたこと。
どうやってイザヤに触れれば良いのか、分からなかったときの話。
「こうやって……イザヤ様から……触れてもらえばよかったんですね……」
そして、とても気持ちよさそうに、少年の聖職衣の胸へ頬を寄せたのだ。
そのまま、すとん、と倒れ込んだ。
「ノウェム!?」
血相を変えた少年が、すぐに呆然と目を丸くした。
すう、と安らかな寝息が聞こえたからだ。
「て、寝るな! 寝るなこら! 馬鹿ポンコツ! そんなのまで約束してねえぞ!」
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九瀬イザヤ×ノウェム(イブ・カダモンシリーズ・EK-09h)
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「イスカリオテⅡ」
(三田誠著、アスキー・メディアワークス電撃文庫刊)
「終章」(P.356~358)より
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口ではそんなこと言いつつも、きっとノウェムが目を覚ますまで動かないでいてあげるんでしょうね、このツンデレ男は(^^;
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