SSブログ

【名場面0035】白衣に染み付いた煙草の匂いが、今は優しく感じます。 [θ 11番ホームの妖精]


θ(シータ)―11番ホームの妖精 (電撃文庫)

θ(シータ)―11番ホームの妖精 (電撃文庫)

  • 作者: 籘真 千歳
  • 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
  • 発売日: 2008/04
  • メディア: 文庫


 私はそのとき、少し頼りない顔をしていたのでしょうか。ドクターは私の頭をその豊かな胸に抱き寄せて撫でてくれました。
「ありがとうっ」
 見かけはともかく、私の方がドクターより本当は一〇〇年以上も年上なのですが、まるで逆転して姉妹です。でもなんだかそれも心地よくて、私はされるままにしていました。
「あの子をさ、叱ってくれたんだろ?」
 私は小さく息を飲みました。
「……ごめんなさい、偉そうに説教臭いことをしてしまったと、反省しています」
「いや、違うよ。たぶんあの子にはそれが必要だった。叱ってくれる人がね。『叱る』ってのはさ、本当はきっと『甘やかす』ことよりずっと難しいんだ。ただ『怒る』んじゃなくて、本当に親身になって『叱る』っていうのは、誰にもできることじゃない。深い愛情を伴わないそれは心に響かないどころか、ただ子供を追いつめるだけだ。私たちには、あの子のいた前の研究所や、たぶん両親役の二人にも、たぶんできなかった。私たちにできたのは、ただあの子の機嫌を損ねないように遠巻きにするだけだ。それがあの子をますます孤独にして、あの子はたぶん飢えてたんだね、自分に正面からぶつかってくれる誰かにさ」
 白衣に染み付いた煙草の匂いが、今は優しく感じます。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――
西晒湖凉子×T・B
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「θ 11番ホームの妖精」
(籐真千歳著、アスキー・メディアワークス電撃文庫刊)
「Ticket02 魔女とバニラとショートホープ」(P.312~313)より
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
 名シーンの多い無名の名作。何度でも言いますが、続刊希望!

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。